助成金のノウハウ
2023.06.24
就業規則の注意点をプロが解説|キャリアアップ助成金正社員化コース
こんにちは。
グロウライフ社会保険労務士法人 労務コンサルタントの竹田です。
本記事では、キャリアアップ助成金 正社員化コースの支給申請時に求められる就業規則について、令和4年4月改正を考慮した注意点、労働条件通知書とセットで改定することの重要性などについて解説します。
制度が改正されていることはご存じでも「就業規則はどのように改定すれば、助成金の要件を満たすの?」「制度改正があったことで、他にも注意しておくことはある?」とお悩みは尽きませんよね?この記事を読んでいただければ、それらの疑問や不安を解消することができます。以下のポイントに注目して読み進めてみてください。
1. キャリアアップ助成金正社員化コースの概要
2. 正社員化コースの基本的な要件を就業規則に規定する
3. 令和4年4月の制度改正に就業規則を対応させる方法
4. 【超重要】就業規則と労働条件通知書はセットで改定
助成金専門の社労士事務所であるグロウライフが、日々、助成金申請を代行している知見をもとに解説しますので、ぜひ参考にしてください。助成金を活用して、人件費の負担軽減を実現しましょう。
01 キャリアアップ助成金 正社員化コースとは?
キャリアアップ助成金 正社員化コースは、有期雇用労働者等を正社員化することで、1人当たり57万円が支給される雇用助成金になります。
事業主がこの制度を活用するには、企業内での正社員化について定めたキャリアアップ計画書を管轄の労働局へ提出したり、有期雇用労働者を対象とした就業規則に正社員化(転換)の制度を導入するなどの準備が整った状態で、正社員化を実施する必要があります。
また、転換するタイミングで、賃金の単価を3%以上増額改定する必要があるなど、細々とした支給要件を全てクリアする必要があり、比較的、申請の難易度の高い制度と言えます。
労働局は、このような正社員化に助成金を支給することで、従業員の働く意欲や能力の向上に加え、生産性の向上を実現したい企業が、優秀な人材の確保へ前向きに取り組めるよう支援することを目的としています。
正社員化コースの要件
正社員化コースの要件には、「キャリアアップ助成金の全コース共通の要件」と「正社員化コース特有の要件」がありますので、それぞれ簡単に説明します。
①全コース共通の要件
●雇用保険に加入している
●事業所ごとにキャリアアップ管理者を設置している
●キャリアアップ計画書の認定を受けている
●キャリアアップ助成金のルール通りに書類などを整備している
●キャリアアップ計画期間内に正社員化などの施策を実施した
②正社員化コース特有の要件
●就業規則に正社員化(転換)の制度を導入している
●届出した規定に基づき正社員化している
●正社員化前の6ヵ月間より賃金の単価を3%以上アップさせている
●対象労働者を6ヵ月以上継続雇用し賃金も支払っている
●労働法規や正社員化コースのルールに違反していない
正社員化コースの流れ
キャリアアップ助成金正社員化コースの流れは、以下のようになります。
①キャリアアップ計画書を労働局へ届出
②就業規則へ転換制度を追加
③有期雇用労働者を正社員へ転換
④転換後6ヵ月間雇用を継続し給与を支給
⑤給与を支給した日の翌日~2カ月以内に支給申請
⑥支給申請後、4~5カ月に支給決定
⑦2週間ほどで入金
参考資料:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和5年度版)」
キャリアアップ助成金における用語の定義
キャリアアップ助成金を理解するうえで基礎となる、キャリアアップ助成金の用語について簡単に説明します。
02 申請時の必要書類『就業規則』とは?|キャリアアップ助成金 正社員化コース
就業規則とは、労働者が働く上での職場全体のルールブックです。労働時間や休日、賃金や待遇などが定められた文書になります。企業が作成した就業規則は、従業員に周知されることで初めて有効となります。
従業員数が10名以上の職場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が、事業主に義務付けられています。ただし、従業員数が10名以下の職場でも、就業規則の作成は推奨されており、不平等条項等の当否を判断する上でも必要不可欠な資料となります。
就業規則は、従業員と企業の利益を両立させるための重要な文書であり、企業が遵守し、従業員も理解することが必要です。従業員にとっても自分の義務や権利が明確になることで、労働トラブルを未然に防ぐことができます。したがって、企業は適切な就業規則を作成し、従業員に適切に周知することが重要です。
助成金申請に就業規則が求められる理由
助成金とは主に厚生労働省が管轄しており、事業主による「雇用の促進や職場環境の改善」を支援することを目的として設けられています。つまり、職場のルールブックである就業規則とは非常に関係が深くなります。
助成金の申請時には多くのケースで、就業規則の作成・変更などが必要です。たとえば、キャリアアップ助成金の正社員化コースを申請するのであれは、有期雇用労働者を対象とした就業規則に正社員化コースの要件を満たした転換制度の文言が記載されていることが前提となります。就業規則に制度が正しく導入されていない状態では、助成金は確実に不支給になります。
就業規則を作成・変更する際、事業主は、法令遵守や従業員の権利保護を含めた様々な要件に配慮する必要があります。助成金の申請においても適切な就業規則の作成が重要であり、支給の可否を左右する要素の一つとして注目されます。このことからも、就業規則の整備には時間と手間がかかるものの、助成金の受給にとっては重要な書類であると言えます。。
正社員化コースの申請において重要なポイント
キャリアアップ助成金 正社員化コースの申請における、重要なポイントを3つご紹介します。
①正規雇用・非正規雇用の定義が明確であること
正社員化コースは、非正規雇用労働者の待遇改善を目的とした制度ですので、非正規雇用労働者と正規雇用労働者の定義を就業規則へ明確に規程する必要があります。
具体的には、有期雇用労働者の有期期間を明確に定めることや、正社員との待遇(手当・昇給・賞与・退職金など)の差分がどこにあるのかを明確に定めることを求められます。
このように雇用形態による待遇の違いなどを明確にすることは、労使間の信頼を築き労働環境の改善にもつながりますので、企業にとっても非常に有益です。
②正社員化(転換)の制度が正しく導入されていること
正社員化コースでは、正社員化(転換)の制度が適切なタイミングで導入されている必要があります。正しい文言が追加されていたとしても、その施行日が適切でなければ、支給要件を満たさなくなってしまいます。また、従業員数が10名を超えるような事業所の場合、労働基準監督署に届出した就業規則の写しを支給申請時に添付する必要がありますので、就業規則への制度導入は、余裕を持って取り組みようにしてください。
③給与の支給状況と就業規則などの内容に齟齬がないこと
就業規則と労働条件通知書(雇用契約書)の内容に齟齬が生じている状態は、内容によっては不支給になる可能性があります。特に、基本給・手当の部分は「3%以上の賃金改定」の要件に影響し、昇給・賞与・退職金の部分は「待遇の差分を明確にする」の要件に影響します。
労働局は、給与の支給状況との整合性などは、かなり細かくチェックしてきますので、支給・不支給に関わるような項目は、厳重に確認するようにしてください。
03 令和4年4月改正のポイント|キャリアアップ助成金 正社員化コース
令和4年4月1日からの改正点として、有期雇用から無期雇用への転換が廃止され、正社員化が原則となりました。また、令和4年10月1日以降に転換または直接雇用が行われる場合の、正社員と非正規雇用労働者の定義が変更になった点にも注意が必要です。
この変更に伴い、正社員化コースの審査は厳格になり、基準を満たすことがより困難になりました。以前の要件で、受給されたことがある事業所でも、就業規則の見直しが必要になっていますので、そのままの就業規則で申請しないようにしてください。
改定後の正社員化コースを申請される場合は、現行の支給要件をしっかりと確認し、就業規則・労働条件通知書(雇用契約書)などのメンテナンスを実施した上で、取り組まれることをおすすめします。
正規雇用労働者定義の変更
参考資料:厚生労働省「キャリアアップ助成金が変わります~ 令和4年4月1日以降 変更点の概要~」
労働法規をしっかりと守っている会社の正社員であれば、一般的には「賞与や昇給」に関するルールはありますので、より実態に近づけた形だといえます。
非正規雇用労働者定義の変更
こちらも就業規則を正しく運用している会社であれば、定めておられたかと思います。ただし、会社のルールとしては規定していたが、就業規則では曖昧なままということもありますので、見直す良いきっかけだといえるでしょう。
04 就業規則を対応させるポイント|キャリアアップ助成金 正社員化コース
キャリアアップ助成金 正社員化コースの内容に変更があり、「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」の定義が厳格化されたことを受け、就業規則の規定もルールに対応させる必要があります。
基本的には、労働法規にそって規定すれば問題ありませんが、念のためにキャリアアップ助成金のルールもしっかりと確認してから対応しましょう。
しかし、就業規則を正しく作るには、かなりの法的知識が必要です。社内に専門の部署がない場合には、社会保険労務士に相談することをおすすめします。
有期雇用労働者の契約期間の明示
有期雇用労働者を正規雇用労働者に変更する場合、雇用者側は就業規則などにおいて明確に契約期間を規定する必要があります。もし契約期間が定められていない場合、雇用契約書上で有期雇用労働者であっても、無期雇用労働者として扱われますのでご注意ください。正社員化コースでは、有期からの転換か、無期からの転換か、で助成額に大きな違いがありますので注意が必要です。
就業規則への具体的な記載例
・有期雇用労働者の雇用契約期間は3年とする。
・契約社員の雇用契約期間は3年以内として個別に定める。
正規雇用労働者の「昇給」「賞与」「退職金」
正規雇用労働者の「昇給」「賞与」「退職金」についても明記が必要になりましたので、記載例なども交えて説明します。
①昇給・賞与・退職金の変更点
令和4年4月の改正前の正社員定義は「同じ事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者」となっており、「賞与または退職金、昇給」については明記する必要はありませんでした。しかし、実際の会社経営で正社員の賞与や昇給についてルールがない場合には、労働トラブルが起こる可能性は高いといえるでしょう。
これらの実情を踏まえて「賞与または退職金、昇給」について就業規則への規定が必要になりました。
②就業規則への具体的な記載例
■昇給
・昇給 は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年〇月をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、行わないことがある。
■賞与
・賞与 は、原則として、下記の算定対象期間に在籍した労働者に対し、下記の支給日に支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある。
■退職金
・勤続〇年以上の労働者が退職したときは、退職金規定に基づき退職金を支給する。
③昇給・支給できない場合について記載する
就業規則または賃金規程において、賃金の昇給に関する事項は必ず規定しなければなりません。具体的には、昇給の時期や条件などを規定する必要があります。ただし、「毎年〇月に昇給を行う」と記載すると必ず昇給しなければならなくなります。「勤務成績が悪い場合」や「会社の業績が悪い場合」などは昇給を行わないケースがあるときは必ず記載しておきましょう。これは賞与や退職金についても同様です。
試用期間の記載には要注意
正社員化した後に「試用期間」を規定しているケースでは、「使用期間」は正社員と見なされませんのでご注意ください。試用期間中は無期雇用とみなされ、「無期雇用から正社員への転換」となり、助成金の支給額にも大きな影響が出てしまいます。
キャリアアップ助成金 正社員化コースの場合には、「試用期間」の取り扱いには十分に注意し、疑問点がある場合には、必ず社労士などに相談するようにしましょう。「試用期間を定めたために、何百万円も支給額が減ってしまった」ということになりかねません。
有期雇用労働者と正規雇用労働者の待遇差
厳密な区別を明確にする場合にも、「同一労働・同一賃金の原則」に従い、慎重に規定する必要があります。この原則は、有期雇用労働者と正規雇用労働者の間につくり出される待遇差を不合理なものとしないことを意味しています。
つまり、基本給や賞与、その他の待遇において、不適切な差異を設けることが禁止されています。この原則は、「パートタイム・有期雇用労働法」などで明確に規定されており、2020年4月からは大企業、2021年4月からは中小企業にも適用されています。
賃金や手当などで正規と非正規労働者に差異を設定する場合には、この原則に従って慎重に決定することが求められます。労働関係法令に違反すると、助成金が不支給になるなど、深刻な問題を招くことになりますので、十分にご注意ください。
有期雇用労働者に対する就業規則の適用時期
有期雇用労働者を正社員化してキャリアアップ助成金を受給するためには、正社員化前に就業規則などを変更して、適切な規定を定めなければなりません。
①10人以上の事業所の注意点
労働基準法によると、10人以上の労働者を雇用する企業に対しては、就業規則の作成と届出が求められます。キャリアアップ助成金 正社員化コースの申請を行う場合、前述の規定に従って、有期雇用契約または無期雇用契約から正規雇用契約への転換制度に関する記載が必要となります。
新しい制度を導入する場合や、すでに制度はあるが明記がない場合は、就業規則に規定を明示する必要があります。また、すでに就業規則にその規定がある場合でも、助成金を受給するためには、要件を満たす内容であることが求められます。
具体的には、助成金支給のためには、就業規則に、有期雇用の従業員を正規雇用の従業員に転換する制度があること、転換のための条件、手続き、時期に関する明確な記載が求められます。
②10人未満の事業所は申立書でもOK
先述の通り、法的には常勤の従業員が10人未満の場合、就業規則を作成して労働基準監督署に届出する必要はありません。しかしながら、キャリアアップ助成金を受けるためには、就業規則を労働基準監督署に提出するか、「就業規則申立書」を提出することが必要となります。
05 【超重要】就業規則と労働条件通知書はセットで改定
キャリアアップ助成金に限らず、ほとんどの助成金において要求されるのが、「就業規則」と「労働条件通知書」の2つの重要文書です。
これらの文書は、事業主が雇用に関するルールを遵守しているかどうかを、労働局が確認するために必要不可欠なものです。もしルール違反が発見された場合、是正を命じる措置を取ることに加え、助成金の支給の有無も検討されます。実際、この2つの書類の内容は、助成金の審査で非常に大きなポイントになると言っても過言ではありません。
労働条件通知書とは?
労働基準法において、立場の弱い労働者が保護されるため、「使用者は労働契約を結ぶ際には、労働者に対して賃金、労働時間以外にも全ての労働条件を明示しなければならない」と定められています。この義務を果たす手段として、労働条件通知書の作成・交付が義務化されています。
正社員化コースの申請において重要な項目
キャリアアップ助成金 正社員化コースの申請において重要な項目について説明します。
①契約期間の有無
正社員化コース申請において就業規則への規定が必要な項目は、すなわち「労働条件通知書」への記載も必要になります。「契約期間」については必ず記載しましょう。
有期雇用労働者を正規雇用労働者に移行するには、「契約期間の定め」という条項を就業規則に明確に規定する必要があります。もし、この条項が欠落している場合、有期雇用労働者であっても、無期雇用労働者として取り扱われることになります。
また、契約更新の条項が「自動更新」になっているケースでも、キャリアアップ助成金の考え方では無期雇用労働者とみなされ、対象者の要件を満たさないと判断されてしいますので注意が必要です。
②就業時間・休日
始業・終業時間や休日の設定は、所定労働時間や残業手当の算定に影響し、給与計算の根拠となる部分ですので、労働者ごとに働き方が異なるシフト勤務の事業所などでは、特に注意して設定する必要があります。
③基本給・その他の手当
正社員化コースでは、有期雇用期間と正規雇用期間の前後6か月を比較して、基本給の単価を3%以上アップする必要があり、その算定に含めるべき基本給やその他の手当については、明確な運用方針(どのような労働者に、どのような基準で支給するかなど)を記載しておくよう定められています。
④昇給・賞与・退職金
前述したように令和4年4月の改正で、「正規雇用労働者」の定義が厳密化され「昇給・賞与・退職金」について就業規則への明記が必要になっています。これらの重要な事柄は、基本的に「就業規則・労働条件通知書・賃金台帳・出勤簿」の4点セットに齟齬がないように作成する必要があります。
労働条件の変更の都度、作成する必要あり
労働条件通知書は、労働条件に変更があった場合には、その都度作成する必要があります。
手間がかかるため、小規模な事業所では、軽微な変更に対しては労働条件通知書を更新することは少ないかもしれません。
しかしながら、助成金の申請を行う際には、勤務場所や手当など、労働条件が変更された場合には、通知書を作成する必要があります。さらに、通知書の作成だけでなく、賃金台帳などと整合性を保つことも非常に重要です。誤った申告は問題を引き起こすことがあるため、注意深く処理するようにしましょう。
【6】まとめ|キャリアアップ助成金 正社員化コース 就業規則
この記事では、キャリアアップ助成金正社員化コースの支給申請時に求められる就業規則について、令和4年4月改正を考慮した注意点、労働条件通知書とセットで改定することの重要性などについて解説しました。特に注目すべきは以下のポイントです。
1. 非正規雇用労働者と正社員の定義が明確であること。
2. 非正規雇用労働者と正社員の待遇が明確であり、差分があること
3. 就業規則に正社員化(転換)の制度が適切に導入されていること
4. 給与の支給状況と就業規則・労働条件通知書に齟齬がないこと。
このような返済不要の国からの支援金は、積極的に活用したいですね。しかし、キャリアアップ助成金の申請は、年々難易度が高まっており、専門家のサポートが不可欠な取り組みとなってきています。
グロウライフ社会保険労務士法人では、助成金の無料相談を随時、受け付けておりますので、ぜひ、お困りの方は無料相談を利用して専門家のアドバイスを受けてみてください。経験豊富な専門家が、ご相談内容に基づいた具体的な解決策をご提案いたします。
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