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助成金コラム

助成金のノウハウ

2023.07.05

在籍型出向×産業雇用安定助成金|逆境をチャンスに変える助成金活用

こんにちは。
グロウライフ社会保険労務士法人 労務コンサルタントの竹田です。

本記事では、雇用調整助成金のコロナ特例が終了(令和5年3月31日)したことで、今、再注目されている産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)について詳しく解説していきます。

雇用を維持するために国の支援制度を活用したい方、出向助成金に興味はあるものの、何から手をつけていいのかわからないという方、この記事をお読みいただくことで、以下の点が明確になります。

1. 助成金の概要と、対象になるための要件
2. 助成金の助成額と対象期間、受給するまでの流れ
3. 各種申請書類と求められる添付書類
4. コロナ禍における出向事例の紹介

助成金専門の社労士事務所であるグロウライフが、日々、助成金申請を代行している知見をもとに解説しますので、ぜひ参考にしてください。助成金を活用して、人件費の負担軽減を実現しましょう。

これは使える!売上が落ちている企業のお助け【産業雇用安定助成金】

 

01|産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)とは?

在籍型出向とは?

在籍型出向とは、出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結ぶもので、一定期間継続して勤務することが求められます。

出向する労働者にとっては、新しい職場での経験を積むことができるメリットがあり、出向させる企業にとっては、人材確保や人材育成につながるメリットがあります。

一方で、労働者にとっては、出向先企業での待遇や福利厚生が悪化する可能性があるため、労働者に不利益な制度にならないよう配慮が必要です。

雇用維持支援コースの概要

産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)は、新型コロナにより売上や生産量が落ち込み、雇用調整に踏み切らざるを得なくなった事業主の支援を目的としています。

事業が縮小傾向にある事業主が「在籍型出向」で雇用を維持する場合に、出向元と出向先の双方に出向に要した賃金や経費の一部を助成する制度になります。

ここで重要なのは、出向期間終了後に出向元へ復帰することが前提とされている「在籍型出向」であることです。

02|対象となる事業主の要件|出向×助成金

出向元となる事業主

前提として、新型コロナウイルス感染症の影響で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者の雇用を維持することを目的として、労使間協定に基づき、労働者を出向させる場合に対象となります。

2023年6月26日以降、産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)の支給要件は見直され、新たなルールが適用され、出向元事業主・出向先事業主になるための要件が明確に定義されました。

まず、出向元事業主については、対象期間において新たに雇用保険被保険者が増加していないこと、受け入れ派遣労働者数による雇用量の最近3カ月間の月平均値が、前年同期に比べ5%を超えかつ6名以上増加していないこと、などの雇用量要件が追加されています。

次に、生産量要件が改定され、最近3カ月間の月平均値が前年同期および2019年同期に比べて5%以上減少していなければならなくなりました。

この3カ月間は、雇用保険の適用事業所で、この期間を通じて雇用保険被保険者が在籍している状態で要件を満たす必要があります。

出向先となる事業主

次に、出向先事業主については、従来「解雇がないこと」「雇用量の減少がないこと」などの要件を満たしている必要がありましたが、2023年6月26日以降は、「事業所設立からの期間」に関する要件が追加されています。

出向先の事業所は、計画届の提出日時点で会社を設立した日の翌日から起算して1年以上経過していなければならなくなりました。

以上の要件は、出向期間の延長などによる変更届や延長届を提出する場合にも適用され、その都度、審査が行われます。

要件の改定や新たな要件の追加により、より厳密な計画の立案が求められることになりましたので、最新の情報を元に適切な届出を行いましょう。

参考資料:厚生労働省「産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)の支給要件を見直します」

出向元・出向先の独立性について

産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)は、出向元事業所と出向先事業所が資本的、経済的、組織的関連性を考慮し、独立性が認められるかどうかで助成内容が大きく異なります。

制度が創設された当初は、親会社と子会社の間の出向や、代表取締役が同一人物である企業間の出向は対象外とされていました。

ですが、令和3年8月1日より制度が改定され、独立性が認められない事業主間の出向でも一定の要件を満たせば助成対象と見なされるようになりました。

参考資料:厚生労働省「独立性が認められない子会社間などの「在籍型出向」」

03|対象となる労働者の要件|出向×助成金

対象労働者は、出向する前日時点において、出向元事業主に6カ月以上雇用されている雇用保険被保険者である必要があります。

また、解雇予告されている方、退職する予定の方などは対象になりません。他にも、役員、同居の親族などの一般的に雇用保険被保険者になれない方なども対象になりませんので、ご注意ください。

04|助成額と対象期間|出向×助成金

出向初期経費助成

出向初期経費助成は、出向前に必要となる措置の経費を助成します。これには、就業規則や出向契約書の整備費用、出向前の教育訓練費、受け入れる出向者のための機器や備品の整備費などが含まれます。

助成額は1人あたり各10万円(出向元および出向先、定額)で、一定の要件を満たす場合には加算額として1人あたり各5万円が追加されます。ただし、グループ内出向の場合は、出向初期経費助成は支給されません。

助成金では、「実際にかかった費用に対して〇%、上限〇〇万円まで支給」といった設定の制度が一般的ですが、この助成に関しては、仮に、実際にかかった費用が10万円未満だったとしても、一律で支給されますので、非常に手厚い制度と言えます。

助成額 加算額
出向元・出向先 各10万円/1人あたり(定額) 各5万円/1人あたり(定額)

 

出向運営経費助成

出向初期経費助成が、出向開始時の「イニシャルコスト」に対する助成なのに対して、出向運営経費助成は、毎月発生する人件費、教育訓練費、労務管理費などのいわゆる「ランニングコスト」に対する助成になります。

中小企業の助成率は、出向元が労働者の解雇などを行っていなければ10分の9、解雇などを行っている場合で5分の4、グループ内出向の場合では3分の2となります。助成額の上限は、1人あたり日額1万2,000円(出向元・出向先の合計)で、最長2年間助成されます。

助成率 中小企業 中小企業以外
出向元が労働者の解雇などを行っていない場合 9/10 3/4
出向元が労働者の解雇を行っている場合 4/5 2/3
グループ内出向の場合 2/3 1/2
上限額(出向元・出向先の合計) 12,000円/1人1日あたり

 

05|助成金を受給するまでの流れ|出向×助成金

①出向の計画
出向元事業主と出向先事業主間で出向契約を締結する
出向元事業主と労働者代表間で労使協定を締結する
出向予定者に出向同意書にサインをもらう

②計画届
出向計画の内容について、出向元事業主が計画届を提出する。

③出向の実施
計画届に基づいて出向を実施する

④支給申請
出向の実績に基づいて、出向元事業主が支給申請書を提出する。

⑤審査・支給決定
支給申請の内容について労働局で審査と支給決定が行われる。

⑥支給額の振込
支給決定された額が出向元と出向先にそれぞれ振り込まれる。

06|各種申請書類の様式と添付書類|出向×助成金

ここで紹介する書類は、基本的な計画届の様式や添付書類になります。

ここで紹介したもの以外であっても、都道府県労働局が審査に当たって求めた書類は提出の必要があります。また、労働局への提出の手続については、出向先事業主が準備した書類も含めて、出向元事業主が行うこととなり、計画届の提出は出向を開始する前日まで、支給申請書の提出は給与支給日の翌日から2カ月以内に行う必要があります。

計画届の様式と添付書類

①出向実施計画(変更)届(出向元事業主)
雇用保険の適用事業所番号などの事業所情報、事務担当者の氏名、主たる事業内容、同時期の助成金申請の有無、出向を開始する基準日といった基本的な事項を記載します。事業所情報を間違えると届出が無効になる可能性がありますので、間違えないよう注意しましょう。

②出向先事業所別調書
出向先事業所の情報、出向が雇用調整を目的としていることの確認、独立性の有無、賃金の負担方法、何ヵ月ごとに支給申請するか、出向予定者ごとの出向期間などについて記載します。助成金申請上、間違えると不支給になるような項目もあるので、注意して作成しましょう。

③出向実施計画(変更)届(出向先事業主)
この書類は出向先事業主が作成し、出向元事業所に提出してください。出向元事業所が取りまとめて届出を行います。「出向実施計画(変更)届(出向元事業主)」と同じく基本的な事業所情報、解雇要件に関する事項、出向が雇用調整を目的としていることの確認など、助成金申請上、ポイントとなる重要な事項がありますので、間違えないよう注意しましょう。

④出向元事業所の事業活動の状況に関する申出書および確認書類
出向元事業所の受給要件である生産量要件(コロナ禍により売上などが5%以上減少していること)をクリアしているかを確認するため、月間売上などを記入します。確認資料として、対象期間の月ごとの売上高を確認できる「月次損益計算書」「総勘定元帳」「生産月報」などの書類を添付する必要があります。

⑤出向先事業所の雇用指標の状況に関する申出書
出向先事業所の受給要件である雇用量要件の数値を記入します。また、出向開始日前日の6カ月前から、助成対象期間の末日までに、事業主都合による解雇を行っていないことや、最近3カ月間の月平均値が前年同期に比べて、10%超かつ4人以上の減少がないことといった要件を満たしている必要があります。

⑤出向に係る本人同意書
出向に関する労働条件や待遇、出向終了後に元の職場へ復帰することなど、出向労働者が出向の指示について承諾していることを確認するための書類になります。

⑥出向協定書
出向の実施について労働者代表との間で締結した協定書(労働者代表を確認するための書類)。出向期間、賃金・労働条件、交通費・各種保険などの福利厚生や待遇について記載します。

⑦履歴事項全部証明書
中小企業に該当するか否かを確認するために事業内容や資本金などを確認するための書類です。

⑧就業規則(給与規定・年間休日カレンダー)
事業所ごとに定められている、所定労働日・所定休日・所定労働時間等や、賃金締切日等の賃金制度の規定を確認するための書類です。

⑨独立性を確認できる書類
原則、出向元と出向先が資本的、経済的、組織的関連性等からみて独立性が認められる必要がるため、その実態について確認するための書類です。
※グループ会社などの独立性が認められない事業主間で出向を実施する場合は、提出は不要です。

⑩出向契約書
出向の実施について出向元事業主と出向先事業主間で締結した出向に関する契約書。従業員情報、出向期間、出向先での給与・手当・昇給・賞与などの取り決め、交通費・各種保険などの福利厚生や待遇などについて記載します。

支給申請書の様式と添付書類

①支給申請書
出向元事業所・出向先事業所について、それぞれの事業所情報、支給申請に係る出向労働者数、支給申請額、独立性の有無などについて記載します。事業所情報を間違えると届出が無効になる可能性がありますので、間違えないよう注意しましょう。

②出向元(出向先)事業所賃金補填額・負担額等調書
出向元事業所・出向先事業所ごとにそれぞれ作成し、対象期間に負担した出向労働者毎の賃金(経費)を記載します。

③支給対象者別支給額算定調書(共通)
出向労働者ごとにそれぞれ作成します。出向中の賃金単価を出向前の賃金単価で除した値が、0.85以上1.15以下であることを確認するための書類です。0.85未満であれば、助成金の支給要件を満たしませんので、事前に確認しておく必要があります。

④支給要件確認申立書(産業雇用安定助成金)
出向元事業所・出向先事業所ごとにそれぞれ作成します。事業主が支給要件(直近5年間の受給の有無、労働保険料の滞納の有無、直近1年間の労働法令違反の有無、風俗等関係事業主でないか、倒産していないか など)をクリアしているかを確認する書類です。

⑤雇用維持事業主申告書
出向元事業所について、対象期間の雇用保険被保険数を記載します。雇用維持要件や解雇の有無について、その実態を確認するための書類です。

⑥出向の実績に関する書類
対象労働者が、出向の開始日以降に出向先事業所で勤務していることを確認する書類です。出向先事業所での勤務状況、人数、出向形態などが確認できる必要があり、労働者名簿・出勤簿・タイムカードなどの提出が求められます。

07|コロナ禍における在籍型出向の事例|出向×助成金

新型コロナウイルスは、飲食業や宿泊・旅行業に大きな影響を与えている傾向があり、そういった業種から、異業種の企業へ出向している事例が多く見られます。異業種であっても、仕事内容に親和性があることで巧くいくケースもあるため、大企業に限らず、規模の小さな事業所でも出向に取り組んでいる事例が増加傾向にあります。

飲食業から警備業への出向[出向期間6か月/出向労働者12名]

(飲食店)
レストランをチェーン展開しているが、時短営業や営業自粛の要請により売上が大幅に減少してしまっていた。企業全体の雇用を守るため、店長クラスの従業員を中心に、出向してもらうことに。

(警備会社)
コロナワクチン接種会場の警備を自治体から受託したことにより、警備スタッフを確保する必要があり、在籍型出向の受け入れを検討。実際に警備業務に就く前に、新任警備員教育研修を実施。

宿泊業から小売業への出向[出向期間18か月/出向労働者10名]

(旅館業)
コロナの影響により宿泊者が大幅に減少していたため、従業員の雇用を維持するためにも在籍型出向を活用したい。

(コンビニエンスストア)
直轄のコンビニエンスストアの店長となる人材を確保する必要があった。勤務地は出向労働者の居住地を踏まえて弾力的に対応できるので、宿泊業に勤務されている方であれば、シフト勤務や夜勤にも抵抗感が少ないのではと考えた。

旅行業から福祉業への出向[出向期間10か月/出向労働者3名]

(旅行会社)
インバウンド観光客を対象とする旅行企画・営業がほとんど稼働していないため、雇用過剰となっている。旅行需要が回復するまで従業員の雇用維持を図りたい。

(保育園)
保育所での給食の調理補助者が育児休業を取得することになったため、1年間限定で勤務してくれる方を探していた。

08|まとめ|出向×助成金

この記事では、在籍型出向と産業雇用安定助成金の活用について詳しく解説しました。コロナ禍により厳しい経済状況が続く中で、企業と労働者が逆境をチャンスに変えるための一つの手段として、在籍型出向という形式と、それを支える産業雇用安定助成金の活用が注目されています。

本記事で解説した重要なポイントは以下の通りです。
1. 在籍型出向は、労働者が所属する企業を離れずに他の企業で働く形態で、多様な経験を積むことが可能です。
2. 出向元と出向先の独立性は、助成金申請の重要な要件となっています。
3. 助成額や対象期間は出向の初期経費や運営経費をカバーし、企業の経済的負担を軽減します。

国からの返済不要の支援金を積極的に活用することで、企業の持続可能性を高め、労働者のキャリア形成を支援することができます。

ただし、助成金の申請は、年々難易度が高まっており、専門家のサポートが不可欠な取り組みとなってきています。グロウライフ社会保険労務士法人では、助成金の無料相談を随時、受け付けておりますので、ぜひ、お困りの方は無料相談を利用して専門家のアドバイスを受けてみてください。

こちらの記事も参考にしてください。

受付中の助成金の支給要件・受給額などの詳細は、こちらからご確認ください。

 

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