助成金のノウハウ
2023.06.28
最大120万円支給|キャリアアップ助成金「障害者正社員コース」を助成金のプロが解説!
こんにちは。
グロウライフ社会保険労務士法人 労務コンサルタントの竹田です。
本記事では、キャリアアップ助成金「障害者正社員コース」の詳細について、具体的に解説していきます。
「キャリアアップ助成金 障害者正社員コース」とは何か、申請条件はどうなっているのか、そしてこの制度を活用することでどのようなメリットが得られるのか、多くの事業主の皆様が抱えられているこれらの疑問を解消します。
本記事を通して、以下の重要なポイントを解説します。
1. キャリアアップ助成金の基本的な目的と概要
2. 障害者正社員化コースを申請する際の対象となる事業主と労働者の要件
3. 令和4年10月1日以降の主な変更点とその影響
助成金を活用することは、事業を拡大・発展させる上で非常に有効な手段です。しかし、申請の手続きや要件は複雑であり、多くの事業主の方が挑戦しづらいと感じることも少なくありません。
そんな中、助成金専門の社労士事務所であるグロウライフが、日々、助成金申請を代行している知見をもとに解説しますので、ぜひ参考にしてください。助成金を活用して、人件費の負担軽減を実現しましょう。
1 キャリアアップ助成金とは?
ここでは、「キャリアアップ助成金」のことをご存じない方のために、そもそも、国が何のためにキャリアアップ助成金という制度を設けたのか、どのような内容の制度なのかについて、ざっくりと解説していきます。
1.1 キャリアアップ助成金の目的
キャリアアップ助成金は、厚生労働省が推進する非正規雇用労働者のキャリア向上と待遇改善のための支援策です。
非正規のアルバイトや派遣、有期契約社員などを正社員へ転換、あるいは待遇を見直す企業に対して支給されるもので、労働者の意欲や生産性を高めることを狙いとしています。
この助成金を適切に活用することで、事業主は優秀な人材の確保と維持、そして全体の労働生産性の向上に寄与することが期待されます。
1.2 キャリアアップ助成金の概要
この助成金は、正社員への転職や待遇の改善に取り組む事業主を対象としています。具体的には、以下の7つのコースが設けられており、それぞれの事業所の状況やニーズに合わせて適切な支援を受けることができます。
・正社員化コース
・障害者正社員化コース
・賃金規定等改定コース
・賃金規定等共通化コース
・賞与・退職金制度導入コース
・選択的適用拡大導入時処遇改善コース
・短時間労働者労働時間延長コース
これらの制度が活用されることで、企業の人材の確保や育成、そして生産性の向上に資することが期待されます。
※2022年4月に大きな制度改定がありましたので、最新の要件を確認することが不可欠です。
2 キャリアアップ助成金を申請するには?
次に、キャリアアップ助成金を活用するには、前提としてクリアしておかなければいけない要件について解説します。また、対象から除外される事業主の要件というものも定められていますので、併せてご確認ください。
2.1 全コース共通の条件
支給対象となる事業主は以下の要件を満たす必要があります。
1 雇用保険の適用を受ける事業所の事業主であること
2 各事業所にキャリアアップの専任管理者を配置していること
3 キャリアアップ計画を作成し、労働局からその認定を受けていること
4 対象労働者の労働条件や勤務状況などが明確に記載された書類を有していること
5 計画期間中に非正規労働者のキャリアアップの取り組みを行っていること。
2.2 対象とならない事業主
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリア向上を支援するためのものですが、全ての事業主がその対象となるわけではありません。
納税義務の遵守、法令遵守、営業内容や団体所属に関する問題がないか等、様々な点での審査が行われます。特に、公序良俗に反する業務や暴力団との関連性がある事業主は、その公共性の観点から支給対象外とされています。助成金を受け取ることの社会的意義を理解し、適切な対応が求められます。
3 障害者雇用に関する助成金とその目的
日本では障害者を雇用することが法律で義務付けられており、その際には法定雇用率をクリアする必要があります。法定雇用率とは障害者雇用の目標比率のことで、これを下回ると障害者雇用調整金を支払うことになり、法定雇用率を上回ると障害者雇用納付金制度に基づく調整金を受け取ることができます。
また、障害者を雇用するための、職場の作業施設や福祉施設の整備、適切な雇用管理に必要な介助、通勤を容易にするための措置等にかかる費用や、障害者の職業能力を開発・向上させるための訓練等にかかる費用について国が支援する助成制度が設けられています。
調整金や助成金を上手に活用することで、障害者を雇用する企業は経済的負担を軽減し、障害者自身も自立した生活を送れるようになる。国の制度には、そのための一助となることが期待されているといった背景があります。
3.1 障害者正社員化コースの目的
キャリアアップ助成金「障害者正社員化コース」は、障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等(勤務地限定正社員・職務限定正社員・短時間正社員を含む)へ転換した事業主に対して助成するものであり、より安定度の高い雇用形態への転換等を通じた障害者の職場定着を目的としています。
3.2 障害者正社員化コースの支給額
支給対象者1人あたり、下記の額を支給します。支給対象期間1年間のうち、最初の6ヵ月を第1期、次の6ヵ月を第2期といいます。ただし、この支給額が、各々の支給対象期における労働に対する賃金の額を超える場合には、当該賃金の総額を上限額とします。
※ キャリアアップ助成金における正社員化コースの支給申請上限人数には該当しません。
支給対象者 | 措置内容 | 支給総額 | 支払い方法 |
重度身体障害者 重度知的障害者 精神障害者 | 有期雇用から正規雇用への転換 | 120万円 (90万円) | 60万円×2期 (45万円×2期) |
有期雇用から無期雇用への転換 | 60万円 (45万円) | 30万円×2期 (22.5万円×2期) |
|
無期雇用から正規雇用への転換 | 60万円 (45万円) | 30万円×2期 (22.5万円×2期) |
|
重度以外の身体障害者 重度以外の知的障害者 発達障害者 難病患者 高次脳機能障害と診断された者 | 有期雇用から正規雇用への転換 | 90万円 (67.5万円) | 45万円×2期 (33.5万+34万円) |
有期雇用から無期雇用への転換 | 45万円 (33万円) | 22.5万円×2期 (16.5万円×2期) |
|
無期雇用から正規雇用への転換 | 45万円 (33万円) | 22.5万円×2期 (16.5万円×2期) |
※()内は大企業に対する支給額
4 障害者正社員化コースを申請するには?
キャリアアップ助成金「障害者正社員化コース」の対象となる事業主・対象となる従業員は、以下の要件を満たす必要があります。ここでは、主要な要件についてのみ紹介しますので、詳細は、厚労省から提供されている資料をご確認ください。
4.1 対象となる事業主の要件
①雇用する有期雇用労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者に転換すること
若しくは、雇用する無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換すること
②対象労働者を、継続して雇用し、当該労働者に対して、各支給対象期分の賃金を支給すること
第1期:転換後、当該支給対象期の初日から6か月以上の期間
第2期:当該支給対象期の初日から6か月以上の期間
③転換した日以降の期間について、対象労働者を雇用保険被保険者として適用させていること
④転換した日以降の期間について、対象労働者を社会保険被保険者として適用させていること
※社会保険の適用要件を満たす事業所で雇用され、社会保険の適用要件を満たす場合のみ
⑤転換する際に、対象労働者の同意を得ていること
⑥転換後6か月間の賃金を、転換前の6か月間の賃金より減額させていないこと
⑦転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までに、雇用保険被保険者を解雇していないこと
⑧支給申請時点において、対象労働者を解雇等事業主都合で離職させていないこと
4.2 対象となる労働者の要件
①申請事業主に雇用される労働者であること
②転換を行った日の時点で、次のいずれかに該当する労働者であること。
(1)身体障害者
(2)知的障害者
(3)精神障害者
(4)発達障害者
(5)難病患者
(6)脳の機能的損傷に基づく精神障害である高次脳機能障害であると診断された者
③就労継続支援A型事業における利用者でないこと
④支給対象事業主に、賃金の額又は計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則の適用を通算6か月以上受けて雇用される有期雇用労働者であること
⑤正規雇用労働者として雇用されることを約して雇用された有期雇用労働者または無期雇用労働者ではないこと
⑥当該転換日の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所又は資本的・経済的・組織的関連性からみて密接な関係の事業主において、正規雇用労働者として雇用されたことがないこと
⑦転換を行った適用事業所の事業主又は取締役の3親等以内の親族ではないこと
⑧支給申請日において、転換後の雇用区分の状態が継続し、離職していないこと
⑨転換後の雇用形態に定年制が適用される場合、転換日から定年までの期間が1年以上あること
参考資料:厚生労働省「キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)のご案内」
5 令和4年10月の改定による注意点
令和4年10月1日より、キャリアアップ助成金の申請要件が大きく見直されました。この改定により、就業規則や労働条件通知書などの整備を早急に行う必要が生じました。こちらでは、特に、「正社員化コース」や「障害者正社員化コース」を申請する際に対応しておく必要のある変更点について解説していきます。
5.1 正社員の定義の変更
ここでは、正社員の定義がどのように変更されたかについて、具体的に解説していきます。
変更前
同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者は全て正社員とみなされ、試用期間中で正社員待遇が適用されていない者は除外されていました。
変更後
正社員として認められるためには、「賞与または退職金の制度」および「昇給」が適用されていることが必須となり、これらの内容は就業規則に明記しておかなければ認められなくなりました。
また、試用期間中の者は正社員から除外され、試用期間中は「非正規雇用(無期)」とみなされるようになりました。
このため、「有期→正規」への転換で助成金を申請するのであれば、有期から正規へ転換する場合は、試用期間を設けないということ明確に定めておく必要が生じています。
これらの変更は、「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」の両方に適用されますので、正社員化コースの申請を検討する企業は、この要件の改定内容を考慮し、適切な対応と手続きを行う必要があります。
5.2 非正規雇用労働者の定義の変更
次に、非正規雇用労働者の定義がどのように変更されたかについて、具体的に解説していきます。
変更前
対象となる労働者は、「6か月以上雇用されている有期・無期雇用労働者」と定められていました。
変更後
対象となる労働者は、「正社員へ転換する時点で6か月以上、正社員と異なる雇用区分の就業規則が適用されている有期・無期雇用労働者」と見直されました。
この変更により、正社員化コースの要件を全てクリアした就業規則を正社員化の6カ月前には施行しておく必要が生じています。
正社員化コースを申請する場合は、対象期間・転換月・就業規則の施行日などのタイミングが適切であるかを確認し、手続きを行う必要があります。
これらの改定に加え、基本給、賞与、退職金、各種手当のいずれか一つ以上で、正社員と有期雇用労働者の待遇に明確な差分があることが求められるようになり、このことも就業規則へ定めておかなければならなくなりました。
就業規則において、正社員と非正規社員の区別がなく一体としている場合でも、「正社員」「契約社員」「パート」のように規定されている場合は、正規と非正規で区別されているものと見なされ、要件をクリアできますが、「個別の雇用契約書で定める」などのように記しているだけでは、要件をクリアしませんので、特に注意が必要です。
6 支給申請の流れと申請書類について
ここでは、キャリアアップ助成金「障害者正社員化コース」の申請の流れと必要書類を、分かりやすい図表を使ってご説明します。必要書類の数はかなり多く、労働法規に適合していることが求められます。自社に專門の部署がない場合には、社会保険労務士に相談して整備されることをおすすめします。
6.1 支給申請の流れ
※上記の図は、対象者が重度身体障害者で有期雇用から正規雇用へ転換をした場合のイメージ
支給申請にあたっては、以下の支給申請期間内に、支給申請書および添付書類を、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局に提出してください。
参考資料:厚生労働省「雇用関係各種給付金申請等受付窓口一覧(R4.4)」
1期目の支給申請のタイミング
転換した対象労働者に対し、正規雇用労働者、無期雇用労働者としての賃金を、最初の6か月分の支給した日の翌日から起算して2か月以内に申請してください。
2期目の支給申請のタイミング
第1期支給対象期の次の6ヶ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2ヶ月以内に申請してください。
6.2 支給申請に必要な書類
キャリアアップ助成金「障害者正社員化コース」の支給申請様式は、都道府県労働局やハローワークで取得するか、厚生労働省ホームページでダウンロードすることが可能です。ここでは、申請書類の記入例を紹介します。
主な支給申請書類
・キャリアアップ助成金支給申請書
・障害者正社員化コース内訳
・障害者正社員化コース対象者詳細
・支給要件確認申立書
・支払方法・受取人住所届
参考資料:厚生労働省「申請様式のダウンロード(キャリアアップ助成金)」
記入例|(様式第3号)キャリアアップ助成金支給申請書
この支給申請書は、キャリアアップ助成金全コースの共通の様式になります。障害者正社員化を〇で囲みます。
記入例|様式第3号(別添様式2-1)障害者正社員化コース内訳
障害者正社員化コース内訳には、転換の種類、対象者の年齢や障害の内容、申請の区分などについて記入します。
記入例|様式第3号(別添様式2-2)障害者正社員化コース対象労働者詳細
障害者正社員化コース対象労働者詳細には、対象者の情報に加えて、支給要件をクリアしているかを確認す項目について、回答していきます。
他に提出を求められる添付書類
・管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写)
・対象労働者が支給対象となる障害者に該当することを証明する書類
・転換前後の就業規則(写)
・対象労働者の転換前後の雇用契約書または労働条件通知書(写)
・対象労働者の賃金台帳(写)
・対象労働者の出勤簿(写)
7 特定求職者雇用開発助成金と併給する方法
特定求職者雇用開発助成金「特定就職困難者コース」(以下「特開金」という)は、ハローワークや民間の職業紹介事業者などの職業紹介により、障害のある方を継続雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して支給される制度になります。
ここでは、この特開金とキャリアアップ助成金障害者正社員化コースを併給する方法について、解説します。
支給額
■短時間労働者以外の者
採用する労働者 | 合計助成額 | 支払い方法 |
身体・知的障害者 | 120万円 (50万円) |
30万円×4期 (25万円×2期) |
重度障害者 45歳以上の障害者 精神障害者 |
240万円 (100万円) |
40万円×6期 (33万×2期+34万円×1期) |
■短時間労働者(一週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満である者)
採用する労働者 | 合計助成額 | 支払い方法 |
身体・知的障害者 重度障害者 45歳以上の障害者 精神障害者 |
80万円 (30万円) |
20万円×4期 (15万円×2期) |
※()内は大企業に対する支給額
まず、ハローワークから雇い入れる際、特開金を受給するには、無期雇用労働者として雇い入れなければなりませんが、正社員として雇い入れることは求められていないので、この時点では、正社員ではなく無期雇用契約労働者として雇用します。次に、無期雇用労働者として6か月経過後に、正規雇用労働者へ正社員転換することで、この両制度を併給することが可能になります。
身体・知的障害者の場合
特定求職者雇用開発助成金 特定就職困難者コース:120万円
キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース:45万円
重度障害者/45歳以上の障害者/精神障害者の場合
特定求職者雇用開発助成金 特定就職困難者コース:240万円
キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース:60万円
このように両制度を併給できるということを知らないまま、取りこぼしてしまっているケースが多いので、ハローワークから障害者の方を雇い入れる場合は、是非、ご検討ください。
参考資料:厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」
まとめ
この記事では、キャリアアップ助成金「障害者正社員コース」について詳しく解説しました。助成金は、事業の発展や雇用の確保をサポートするための国からの強力な支援策として存在します。その中で「障害者正社員コース」は、特に障害を持つ方々の雇用促進に大きく貢献しており、事業主にとっても大きなメリットが期待できる制度です。
本記事の総括として、以下のポイントを特に押さえて解説しました。
– キャリアアップ助成金の基本的な目的と概要
– 障害者正社員化コースの申請条件と支給額の詳細
– 令和4年10月1日以降の主な変更点とその影響
国からの返済不要のこの有益な支援金を、事業の成長のため、そしてより多くの障害を持つ方々を正社員として雇用するために、積極的に受給することを強くおすすめします。しかし、助成金の申請は、年々難易度が高まっており、専門家のサポートが不可欠な取り組みとなってきています。
グロウライフ社会保険労務士法人では、助成金の無料相談を随時、受け付けておりますので、ぜひ、お困りの方は無料相談を利用して専門家のアドバイスを受けてみてください。
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